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歪曲列島 ~ History of Distortion./附带故事

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1.列島命動 〜 Dawn of our Destiny
1.列岛命动 〜 Dawn of our Destiny
 恐竜が地上を閣歩し始める以前——ペルム紀の地球。
ユーラシア大陸の東の果てに、未だ明瞭な島々の形容を見出す事は出来なかった。

 だが、変化の兆しは既に始まっていた。大陸の東方に広がる超大な海洋プレートは、
大量の堆積物を乗せたままゆっくりと海洋底を進み、やがて大陸プレートの下へ潜り
込んで消滅する。その過程で、海洋プレート上の堆積物は次々と大陸プレートの縁で
刺ぎ取られ、さながらブルドーザーで土砂が損き集められるように大陸側に付加し、
その場で積み重なっていく。こうして形成される「付加体」が、
将来その姿を現わす列島の土台として蓄積されていった。




 およそ三千万年前。突如としてユーラシア大陸の東縁が海洋側に引っ張られ、大地が
裂け始めた。 「背弧拡大」である。裂け目に出来た窪地には海水が浸入し、多島海が
形成された。島々は隆起しつつ更に海へと押し出され、次第に折れ曲げられていき、
やがて逆「く」の字形の弧状列島となった。屈曲部に出現した巨大な地溝帯は、後に
ドイツの地質学者ナウマンによって「フォッサマグナ」と名付けられた。



 また、それとほぼ同じ時期。海側および陸側から掛けられる南北方向の圧縮力に耐え
切れず、列島西南部の大地は、長さ1千キロに渡って巨大な亀裂を走らせた。同じく
ナウマンによって「中央構造線」 と命名された大断層系である。

 その後、列島には幾つか別の島孤が衝突し、境界部には大規模な山地が形成された。
東西方向の圧縮力も加わり、三百万年というごく短期間で、列島全体に数千メートル
級の脊梁山脈が幾つも隆起。こうして列島は、現在の姿へと成長したのである。

 変動はその後も続いた。地中深くから湧き上がるマグマは幾度となく地表へ到達し、
大噴火が繰り返された。大地は分厚い火山灰層によって覆い尽くされた。
 列島周辺の四つのプレートの動きによって、大地は歪み、無数の断層で傷付いた。
断層は時を隔ててずれ動き、大地は激しく揺さぶられ、あらゆる物が破壊された。
地上の全てを流し去る大津波が押し寄せた事も、数え切れないほど沢山あった。

 地殻の大変動、火山の大噴火、大地震、大津波……列島は目まぐるしく蠢き続けた。
もうお分かりであろう。私達の日本列島は、荒ぶる惑星地球が、ユーラシア大陸の
東縁を数億年に渡って気紛れに弄び続けて出来た産物なのだ。

 実に愚かな事に、これほど波乱に満ちた成り立ちを有するこの島々の上で、文明国を
築き上げてしまった連中がいる。ここが地球上で最も危険な地域の一つであると知り
ながら、彼らは今尚そこに居を構え、残酷な運命を受け容れ続けるつもりでいる。

 もし、その決意が揺るがぬものであると言うのなら、これだけは忘れてはならない。
 日本列島—それは、地球の壮大な地殻変動が生み出した地塊の寄木細工であり、
我々一億の日本人を乗せたまま今日も面を蓄積し続ける、傷だらけで満身創痍の
危うい大地なのだ。

 極めて脆弱な文明社会を、そのような不安定な土台の上に築いてしまった以上、
何時、何処で、何が起きても動じぬよう常に防備の出来ている人間でなければ、
いずれ訪れる破局的な大災厄を生き延びる事など決して叶わないのである。

 さて、貴方はどうだろうか。
2.テクトニクスミュージアム
2.Tectonics Museum
「メリー! 何時までも入口の近くに立ち止まってないで、早くこっちへおいでよ!」
「………ちょっと待って。すぐ行くから」
 日本最古のジオパーク、糸魚川。秘封倶楽部の二人組——蓮子とメリーは、人口流出に
より衰退した地方都市には不釣り合いなほど立派な、国営の地学博物館へ見学にやって
来ていた。日本列島の成り立ちについて再確認するためである。

 その薄暗い博物館の展示室の一角。艶やかなブロンドの少女の視線は、怪しくも読者を
圧倒する、異様な迫力を伴った説明文に釘付けにされていた。
「もー、何やってるの!? 宇佐見先生のフォッサマグナ講座が始まるわよ!」
「はいはい……今行くわ、蓮子」
 相方の黒髪の少女に急かされ、メリーはその場を離れていった。けたたましい警鐘を
鳴らすかの如き、鬼気迫る怪文章が掲示されたパネルを、名残惜しそうに見つめながら。
 蓮子のすぐ傍まで行くと、彼女は眼の前にある精巧な模型(日本列島中央部を模った
もので、関東甲信越付近が大きな窪地になっていた)を指差しながら、これがフォッサ
マグナだとか、糸魚川—静岡構造線とは何かなど、地学に纏わる様々な蘊蓄を矢継ぎ
早に語り始めた。


「——でね?このすぐ近くに、糸魚川—静岡構造線を実際に見学できる場所があるの」
 蓮子は嬉しそうにメリーの手を取り、展示室中に響くような大きな声で叫んだ。
「大地の境界へ行ってみようよ!
メリーの能力で視せて欲しいの。想像を絶する大地の蠢動の歴史を!」
3. 見た事も無い悪夢の世界
3. 前所未见的噩梦世界
 糸魚川から前時代的なディーゼル車に乗って十五分ほど内陸へ行くと、構造線が地表に
露出している場所がある。地上に居ながら大地の境界を視る事が出来る数少ない場所だ。
「もともと、日本列島はユーラシア大陸の一部だったわ。
 三千万年前から地殻変動によって大陸の東縁が裂け始め、二千万年前には
 一年に十数センチという凄まじいスピードで日本海が拡大していったの。
 その際に、西南日本は時計回りに、東北日本は反時計回りに回転した。
 そんな日本海の裂開の様子は『観音開き』と譬えられる事があるそうよ」
「その結果が、今の逆『く』の字形の日本列島なのね」




 日本海の急速な拡大は約千五百万年前に完了した。たった五百万年の間に、日本列島は
西南部と東北部を合算して約七〇度も歪曲されてしまったのである。
「——と、これが『日本海裂開説』の趣旨なんだけど、まだ続きがあるの。
 生地の上に、トロトロに融けたチーズが乗っかっているピザを想い浮かべて。
 二つに切って、引き離すと溝が出来るでしょ? それが大地溝帯 (フォッサマグナ) よ」

 チーズは溝に落ちる。大地も一緒だ。地溝に地塊が落ち込み、境界面は正断層になる。
こうして出来た断面が、今まさに二人の目の前を走る糸魚川—静岡構造線なのである。
 メリーは正面の岩塊に手を触れ、もう一方の手を蓮子に差し出した。
「さぁ、蓮子も一緒に」
 ——轟音と共に引き裂かれゆく地塊、軋みながらずれ動く大地の境界、果てしなく続く
大地震と大噴火、列島の真の姿を覆い隠してゆく膨大な火山灰……。
 二人が垣間見たのは、誰も見た事も無く、言葉に表す事すらままならない、恐るべき
破壊と死の世界だった。


4.少女が見た日本の原風景
4.少女曾见的日本原风景
 構造線の露頭を後にしても、蓮子の興奮は覚めやらなかった。少年のように瞳を輝かせ、
延々と地学分野の蘊蓄を推し立てている。
 「——ところで、偉大な天才地球物理学者の寺田寅彦を知ってる?
何が凄いってこの人、一九二七年には既に日本列島漂移論を発表しているの!
ウェゲナーが大陸移動説を発表したのが一九一二年だから、たったの十五年後よ!
まだ陸地が平行移動する事すら疑われていた時代、直観とイマジネーションを武器に
これほど先進的な予想を立てた百年前の偉人を、天才と呼ばずして何と……」



 だが、流石の蓮子も、眉間を歪めて俯きながら眼を押さえるメリーの様子を見て、よう
やく我に帰ったようだ。
「……メリー、大丈夫?」
「んうう……眼と頭が凄く痛いわ……」
「数千万年前の日本の地獄絵図 (げんふうけい) を直視して、眼と脳を酷使し たのね。無理もないわ」
「視せろって言ったのは蓮子じゃない……」

 二人の他に誰も乗っていない一両編成の列車は、構造線の走る谷間沿いを、南を目指して
ひたすら走る。眼の保養のため、メリーは車窓の景色をぼんやりと眺める事にした。
「それにしても、ますます気分が悪くなるような素晴らしい光景ね!」
 磐え立つ山々は土砂崩れや土石流を防止する名目で補強済み。それらを覆い尽くす緑の
正体は、品種改良によって生み出され、人の手によって植え付けられた樹種だ。急流が
永い時間をかけて削り上げた渓谷も、今やきっちり護岸工事が行われている。澄み渡る
蒼い空ですら、防災目的の緻密な計算に基づく気象庁の天候調整措置によるものなのだ。


 もはやこの国に、本物の原風景など残されてはいない。
5.冷め逝く白馬の暖かい旅荘
5.冷め逝く白馬の暖かい旅荘
「午後九時十六分。ヘルクレス座の星々が北アルプスへと沈んでいくわ。
 メリー、今日はご苦労様」
「ええ。何だか凄く疲れちゃった……」

 日は既に西の地平線深くに沈み、かつて人気を博したリゾート地……白馬は、満天の
星空の下にあった。煌めく天の川を眺めながら、蓮子とメリーは温かいココアを限り、
ゆったりと談笑している。二人が眠りに就く時間も、そう遠くないだろう。

 二人が宿泊先として選んだのは、前時代的かつ温かな雰囲気のペンションだった。趣の
ある宿の雰囲気さえ味わえればいいと言うのであれば、大都会に居ながらバーチャルで
体験出来てしまう。リアルのリゾート地は衰退するしかなかったのだ。

「心地良い涼しさねぇ」
「うん。だけど、今晩はかなり冷えそうよ」
「そうね。早めに切り上げて寝ましょう」

 メリーは手で口を覆いながら、大きなあくびを一つ。だいぶ疲れた表情が見て取れた。
「あぁ……ふわぁ。明日は目覚まし時計を掛けないで、遅くまでゆっくり寝よう……」
「こら!明日も予定がぎっしり詰まってるんだからね!」
「ごめんごめん、冗談よ。えぇっと、それで……あれ?」

 彼女は大切な事をすっかり忘れかけていた。
観光を楽しむばかりで、旅の本当の目的を見失っていたのである。
「私達って、何のために旅をしてるんだっけ?」
6.黒と影の偽歴史 〜 Excluded Cyclops
6.黑与影的伪历史 〜 Excluded Cyclops
 ——上も下 も分からない。そもそも、方向という概念を用いる事すら馬鹿馬鹿しい。
メリーは次第に、今自分が漂っている場所が、そんな夢の世界であると気が付いた。
「…………………」
 彼女は、何をするでもなく、ひたすら漂い続けていた。自分から何かしょうという気が
全く起きなかったのだ。酷く疲れていた事もあったのだろう。その時である。
「………ぉーぃ!」
「…………」
「……おぅーい!! 聞こえておるかぁーー!?」
「………んん?」


 何処からか、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おおおおぉぉおおおぉぉぉいいいいいいぃぃいいいっ!!!!」
「えっ!?………あ」
 だんんだんと大きくなるその声は、ほぼ真上から聞こえて来ていた。メリーが見上げると、
そこには……誰かの顔があった。しかし、たとえ人間のように見えたとしても、それが
人間の顔である筈がなかった。人間の顔にしては、それは余りに巨大過ぎたのだ!

「おいっ、小娘!!妾の話を聞いておるのかぁぁ!!?」
「…………ッ!!?」
 驚愕して言葉を失ったメリ ーを見下ろしながら、そいつは大音声で話し掛けてきた。
恐怖を感じたメリーが何も話せないでいると、そいつは怪訝な顔をした。
「……もしやお主、妾が何者か知らぬな?」
「えっ? う、うん。方は一体………」
「ムキィーーー!! どいつもこいつも妾の存在を忘れおってぇー!」
 巨大な顔のそいつは、そう叫ぶや地団太を踏んで怒り始めた。
「国土の造成に携わった偉大な巨神の事も知らんのか!?
 全く、近頃の若衆と来たら……」
「ムッ」
「あっ、ちょ……ちょっと言い過ぎたかの?すまんすまん(汗)」


 少しばかり表情を柔らかくしたそいつは、咳払いをして尚も続けた。
「コホン! ともかく、お前達の旅の本当の目的は何だったんじゃ?」
「そ、それは………」
「ふん! 人間の脳味噌が"物事を忘却するためにある"という事がよう分かるな!」

 腕組みをして仁王立ちするそいつの表情に、もはや怒りの色は見えなかった。むしろ、
何かを優しく教え諭す時のような、穏やかさが垣間見えたのだった。
「歪曲された歴史や隠匿された真相を暴き、この列島の未来を見究める事じゃろが!
 『何か変だ、おかしい!』と直感したから、解き明かす事に決めたんじゃろ?」
 そう語り終わらないうちから、周りの景色がぼやけ始めた。メリーが夢から覚めつつ
あったのだ。「えぇい、もう時間か!」とぼやいて、そいつは最後の言葉を口にした。
「よいか、忘れるでないぞ?
 お前達の知っとる神話なんぞ、とんでもない偽歴史に過ぎないんじゃ!」
7.イザナギファンタジー
7.伊奘诺幻想曲
「ダイダラボッチ?」
「そ!日本各地の伝説に残る謎の巨人よ。
 そいつは自分の事を国土の造成神だって言ったんでしょ?
 ダイダラボッチはね、記紀神話から排除されてしまった哀しい神様なの」


 列車は朝の静かな湖畔を走る。車窓からは、のどかな仁科三湖の景色が見えていた。
「南北に並んだ仁科三湖は、ダイダラボッチの足跡だっていう言い伝えがあるわ。
 それだけじゃない。ダイダラボッチが携わって出来た地形は日本各地に沢山ある。
 なのに、ほとんど誰も覚えていないの。神話が、歴史が抹殺されてしまったんだわ」

 記紀神話(古事記・日本書紀)とは即ち、国定・官製の「正史」である。八世紀初頭、
中央集権化を推し進めていた当時の日本政府にとって、都合の良いファンタジーが編纂
されたのだ。当然、採用されずに排除されてしまった神々も神話も無数に存在しただろう。

「他にも、日本の国土を造った神様は何人もいたわ。
 それなのに、記紀神話には載せてもらえなかったのよ」
「国土を造った神様なんて、大抵"あの二人"しか思い浮かばないものねぇ」

 「あの二人」とは初論、伊弉諾尊と伊弉冉尊の事である。
 だが、大量の付加体を形成し、列島の土台を創った太古のプレートは"イザナギ"と
いう名称しか与えられていない。伊弉冉尊すら黄泉国送りにされ、忘れ去られていく。
 列島の創成は、何時の間にか伊弉諾尊ただ一人のみの功績とされつつあるのだ。


「どうして、一部の神様だけ特別扱いされたのかしら?」
「国家神道によって御し易い神様だけを選び込み、
 歪が溜まり続ける危険な列島をコントロールするためよ。
 大地の蠢動を完全に予測し、統制する事を目指していたんだわ」


8.ラストオカルティズム
8.Last Occultism
 列島に秘められた真相と、その未来の究明を目指す二人を乗せ、列車は南へ走る。
ややもすると、メリーの表情がだんだん険しくなってきた。髪を逆無でされるような
ゾワゾワする悪寒と、纏わり付く嫌な空気が、彼女を不快な気持ちにさせていく。

「………私、あんまりここって好きじゃないのよね」
 車窓に広がる、見捨てられた廃墟が何処までも続くゴーストタウン。無秩序に繁茂する
樹木や雑草で覆われ、全く人の気配が感じられない、寂れた精密工業の町の跡。そして、
大地にぽっかりと空いた、周囲に草木す ら生えない不毛な巨大クレーター。

「ようやうやく到着するわ。日本最大のミステリースポット、諏訪に!」
 かつて諏訪にはそれなりの都市が存在した。だが、二十一世紀初頭のある時期を境に、
急速な人口流出が始まり、やがて自治体そのものが消滅してしまったのだ。
 住民はその都市の特色——中央に横たわる巨大なクレーターの存在——に対して強烈な
違和感を覚え、言葉には表し切れない大きな疑問を感じていたという。


「こんなにも不自然な大穴が、元からここに存在していた訳がない。
 ……前にも話したけれど、元々ここにあったのは、穴じゃなくて湖だったのよ」
 理由や背景について詳しく知る人物は極めて少ない。そのうちの一人が蓮子だった。
「諏訪にはかつて、大きな湖と、由緒正しい神社、そして篤い信仰があった。
 それが何時の間にか消滅してしまったために、この列島には、
 余りにも恐ろしいリスクが付きう事になったのよ!」

 眼前に広がる大地の穴を遠目に見ながら、蓮子は苦々しい表情を浮かべて叫んだ。
「どういうこと?」
「諏訪はね、糸魚川—静岡構造線と中央構造線が交わる重要ポイントなのよ。
 だから、複雑に入り組む地塊を繋ぎ止める"かすがい"か必要だった。
 その役割を果たして来たのが、かつてここに存在した大きな神社だったらしいの」
「まさに"要"ね」
「でも、この地から神社と信仰は……大切な"要"は失われてしまった。
 そのために、将来この国は、想像を絶する規模の大災害に瀕するかも知れないわ!」





 蓮子が立てた遠大な仮説はこうだ。
 我が国の政府は、国家神道の祭祀で交渉が可能な神々に不安定な列島の統御を担わせ、
何時、何処で、どの程度の規模の地震や噴火が起きるのか、完全に予想出来るように
なったと主張している。それどころか、膨大なエネルギーを持つ大地のコントロール
すら、実現する日は近いというのだ。人々もそれを疑う事なく信じ込んでいる。


 しかし、諏訪の"要"が外れてしまい、列島は予測も制御も不能に陥ってしまった。
政府は責任を問われたくないがために、真実を隠蔽・歪曲し、「日本列島は安定期に
入った、富士は死火山になった」などと言って国民を欺いている。
 今日も為政者は「地震や噴火は完全に予測可能になったし、制御出来るようになる日も
近い」と嘘を吐き続けているが、もはや列島の未来を保証出来る者など誰もいないのだ。



 それどころか、まだ代替となる"要"も用意出来ていない。実はもう、何時、何処で、
どんな破局的な大災害が起きたとしても、全くおかしくないのである……!
「"もはや地震も火山も大したことない。津波も地殻変動も大丈夫!"
 政府がそう言うなら安心と、人々は度重なる嘘に騙されて慢心し切ってるわ。
 こんな時に、国家の存立が脅かされる程の巨大災害が襲い掛かって来たら?
 ……あぁ、考えるだけでも恐ろしい事よ!」


9.ジオ・ポエトリー ~ 地球の詩歌
9.ジオ・ポエトリー ~ 地球の詩歌
 日本列島の成り立ちについて、ユニークな説を唱える人物がいた。寺田寅彦である。
 出雲国風土記には、国土造成神が陸地の破片を大陸から引き寄せて土地を拡げたという
「国引き神話」が載っている。ウェゲナーの大陸移動説も考慮に入れると、この伝承は
「事実の胚芽」を含むもので、作り話だからと簡単に掃き捨ててしまうのは軽率だ……。
 寺田は、日本神話と地球物理学の並々ならぬ関係を見抜いていたのである。


「私達日本人は、地震と火山の巣の上に文明国を築き上げてしまった。
 巨大なリスクと隣り合わせのまま、私達はこの列島の上で生き続けていく。
 その事実に、私達はちゃんと向き合った方がいいわ。夢なんて見てないでね」

 この国の歴史は大災害の歴史であったと言っても過言ではなく、そこから演算される
残酷な運命からも、決して逃れる事はできない。……蓮子はそう結論付けたのだった。
「政府の"作り話"なんて、聞くに値しないわ。
 直観とイマジネーションを武器に、偽りのない列島の未来を見守り続けるのよ!」
 メリーは蓮子の言葉を上の空で聞いていた。「何かが違う」と心の中で何度も呟いた。
「何かが変だ。何かがおかしい」 と、彼女の第六感が告げていたのである。
 実のところ、彼女の洞察は的中していた。日本政府は、列島の蠢動を正確に予測し、
それを完全に制御する技術を、国家神道を土台にする事で本当に確立させていたのだ。
それにも関わらず、人々がすっかり忘れた頃に、激甚災害は慢心した日本国民の足元に
突如として襲い掛かって来るのである!


「——"不良品"は、排除しないと」
 知の巨人たる寺田寅彦は、全てを予見していた。
10.業火マントル
10.业火地幔
災難の普遍性恒久性が事実であり天然の方則であるとすると、われわれは
「災難の進化論的意義」といったような問題に行き当たらないわけには行かなくなる。
平たく言えば、われわれ人間はこうした災難に養いはぐくまれて育って来たものであって、
ちょうど野菜や鳥獣魚肉を食って育って来たと同じように災難を食って生き残って来た
種族であっ端、野菜や肉類が無くなれば死滅しなければならないように、災難が
無くなったらたちまち「災難飢餓」のために死滅すべき運命におかれているのではないか
という変わった心配も起こし得られるのではないか……虐待は繁盛のホルモン、
災難は生命の醸母であるとすれば、地震も結構、台風も歓迎、戦争も悪疫も
礼賛に値するのかもしれない。 日本の国土などもこの点では相当恵まれているほうかもしれない。





優生学的災難論といったようなものもできるかもしれない。 災難を予知したり、あるいは
いっ災難が来てもいいように防備のできているような種類の人間だけが災難を生き残り
そういう「ノア」の子孫だけが繁殖すれば知恵の動物としての人間の品質はいやでも
だんだん高まって行く一方であろう。こういう意味で災難は優良種を選択する試験の
メンタルテストであるかもしれない。



寺田寅彦 『災難雑考』 より